あれを飲む

一時帰国を経て、マニラに戻って2週間。
滞在累計は2ヶ月ほどになった。
2ヶ月も経つと悪い意味で慣れてくるものだ。

最初の1ヶ月は見渡すもの全部が新鮮で、休日にはいろんなところに足を伸ばした。
それでも2ヶ月もすると、もう行きたいと思う場所はなくなる。

仕事も慣れてしまうと周りのミスが気になり始める。
なんで終わってないの?
なんで返信してこないの?
なんで説明してくれないの?
そんな風に思うことが多くなった。

飯だって、ホテルの周りで夜までやっている店は限られているから自ずと同じものの繰り返しになる。
考えなくても先週1週間の食事は全部言える。
どれをどの曜日に食べたのかは知らないが、
カレー、ラーメン、ハンバーガー、
パスタ、チャーハン。
この5種類で間違いない。

陰鬱とした気持ちが心を支配する中
ぼんやりと夜飯を考える。

昼ラーメンだったから、夜はカレーにするか。
いや、やっぱりカレー屋に行くのは億劫だな。

ベッドから起き上がる気にならない。

寝転んだまま、誰かから連絡があるわけでもなしにiPhoneを開く。
Twitterを開き、タイムラインが更新されていない事を確認して、iPhoneを投げ置く。

今日は部屋から出ていないから、夜飯くらい食べなくても良いだろう。

そう自分に言い聞かせて、またiPhoneに手を伸ばしかける。

それでもやはり、腹の具合を鑑みると何か口に入れておきたい気もする。
しかし、カレー屋は遠すぎる。
なにせ歩いて5分もかかる。

部屋に何かなかっただろうか。

ひょいと起き上がり、ベッドの上から10畳ほどの部屋を見渡す。

そうだ、あれがあった。

ベッドから降り、部屋の隅に向かう。

口を開いて床に広げっぱなしのスーツケース。

その中から、あれを出す。

ビニールの包装はまだ封を切っていない。
包装を持ち上げると、中の小袋同士がこすれてシャカシャカ音がする。
なかなか良い音だ。

部屋の小さなデスクに座る。
包装の封を破り切り、中から1組のセットを取り出す。

しまった。

器がない。おまけに、箸もない。

フロントに電話をすればきっと持って来てくれるだろうが、仕方ない。ここはコーヒーカップを使おう。

まずは糊状の本体だ。
指の間に袋を挟み、余すことなくカップに注ぐ

次は彩のサブだ。
こいつはサッサとかけてしまおう。

湯は部屋に備え付きのティファールで沸かす。
ペットボトルから1杯分だけ水を打ち入れスイッチを入れる。

湯が沸くまでの間、じっとティファールを見る
ただの銀色のティファールだ。面白くもない。

30秒で湯は沸いた。

急いで湯をコーヒーカップに注ぐ。
思ったよりも糊状の本体が溶けてくれない。
仕方ねえな、と思いつつ、
ティースプーンで攪拌する。
すると、暖かい香りが立ち上ってくる。

まあ、これくらいで、良いだろう。
本体が溶け切ったところでスプーンを置く。

カップを持ち上げ、口に運ぶ。

コーヒーカップはいささか小さかったようだ。
少しだけ、塩っ辛い。

一口飲みほし、息をつく。

味噌汁の旨さを、思い出した。

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